最新情報:金型経験がなく社長に就任した“よそ者”。でも、よそ者だからこそできる改革がある <八州製作株式会社>

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金型経験がなく社長に就任した“よそ者”。でも、よそ者だからこそできる改革がある <八州製作株式会社>

1963年創業の八州製作は、自動車関連部品を製造するための根幹となる金型を提供するメーカーです。60年以上の歴史の中で手掛けた金型は累計で1万型以上。全てがオーダーメイドで、設計・製作に関わる技術者たちのノウハウと技術が詰め込まれた金型が高く評価されています。そんな八州製作の社長として経営を担っているのが、瀬古知里氏です。前職は損保会社の事務職で、全くの畑違いからやってきて社長に就任した瀬古氏が、八州製作をどう発展させたいと考えているのか。様々な観点から話をお聞きしました。

【面白いことがやりたくて、八州製作に転職】

清原

最初に、瀬古社長のプロフィールをお聞かせください。

瀬古

大学は関西で過ごし、新卒で大手損保会社に就職。岐阜の営業所で9年間、事務職をやっていました。退職前の4年は、取引先である販売代理店に出向。その会社の社長がいろんなアイデアをお持ちの方で、システム導入やM&Aのお手伝いなど、社長の右腕として働く機会に恵まれました。

4年後に本体に戻る予定だったのですが、出向先でのいろんな経験をきっかけに、改めて自分のキャリアを振り返ってみたのです。地方の営業所の事務職で、役割が定まっており、工夫する余地は多くありません。一方、出向先では、今日は何をやろう、1週間後は、1ヶ月後は…と先を見据えながら様々なことをこなしました。本体にいた時はパソコンのセットアップすらできなかった私が、出向先では泥臭く、会社運営の基本から経営の舵取りに関わる部分までいろいろ経験させてもらったのです。その経験で、目が覚めました。「もっと面白いことがやりたい」と感じるようになったのです。

そこで本体に戻るのは止め、退職を決意。出向先に残る道もありましたが、そこで初めて実家の営む八州製作という会社が、自分のキャリアの前に現れたのです。

清原

ご家族はどんな反応でしたか。

瀬古

当時、社長だった父には最初反対されました。でも話を続けるうち了承してくれ、2020年4月、取締役という形で入社することになりました。

最初の1年は現場を学ぼうと、社員に助けてもらいながら仕事していました。しかし父が急に「次の7月の決算で代表を変わろう」と言い出したのです。当時はコロナ禍で、外出もままならない時期です。それで取引先にもお客様にも挨拶に行けないままで、現場の社員にも「急に社長をやることになって…」と話すなど、バタバタとした就任でした。後から父に話を聞くと「専門知識がないのはわかっているし、外形だけ取り繕っても始まらない。やるなら代表権を持ち、責任を持ってやれ」ということだったようです。

私に経営者の素養や経験があったわけではありません。会長として今も現場に出る父のアドバイスに耳を傾け、見様見真似で3代目の社長としてやってきた、というのが正直なところです。当社の事業である金型づくりに関しては、いまだにわからないことがたくさんあります。何も知らず、何もできない中で、悩みもしました。幸い、コロナ禍ではあったものの財務状態は健全なままでした。そうやって先人たちが作ってくれた財産をどうやって守り、発展させればよいのか、生え抜きでも経験者でもない私が担うべき役割は何か、当時も今も考えています。

【チームワークを重視する会社へ】

清原

社長として、今はどんな点に注力されているのですか。

瀬古

一言で言うと、会社の土台作りでしょうか。父が社長であった頃は、何でも父が決めるトップダウンの会社でした。それを変えようとしています。会社の今後を考えると、やはり社員が主体となって会社を動かしていくことが一番ではないか、と思うからです。

そのためには制度上のインフラを整備しなければなりません。情報はできるだけ開示し、社員と共有できる場所に置く。人事制度を充実させ、昇進・処遇ルールを明示する。残業を減らし休日を増やす。生産管理をもっとシステマティックにする…そういったところです。

当社の金型は、全て一品一様です。毎日同じものを右から左に流すだけ、という仕事は当社に一つもありません。

これを実現するのに欠かせないのが、技術力とチームワークです。全員のリレーがあって初めて成り立つ事業なのです。チームワークなしではいろんなひずみが出て、社員の意欲を削いでしまいます。社員が言われることを淡々とこなす作業者になってしまっては、金型の品質が向上するはずもありません。現場で汗を流す社員は全員優秀な技術者なので、技術に見合ったやりがいを味わってほしい。そのためにも、チームワークが重要と考えています。

清原

会長が作られた風土を瀬古社長が変えようとすることに対し、会長は何かおっしゃっていますか。

瀬古

相談には乗ってくれますが、私が自主的にやることに対し、会長が「あれは止めろ。これはするな」とは言いません。八州製作の創業者は祖父で、父が2代目ですが、父は娘婿で、元は銀行員でした。外から来たよそ者だということで、父が社長に就任した時、当時の幹部の多くが退職してしまうなど、かなり苦労したそうです。でも、先輩の経営者にその話をしたら「古株の幹部が現場に居座っていたら、かえって君は動きづらかったかもしれない。むしろ良かったんじゃないか」と言われ、確かにそうだと思ったらしいです。

祖父も、父に経営を引き継いだ後はぱっと辞めてしまいました。それが父にはやりやすかったし、ありがたかったようです。だから自分もぱっと私に渡し、後は口出ししない、と決めているのではないでしょうか。自分は若い人のことがよくわからない。時代も違うし、下の世代に任せた方がうまくいく、と思っているようです。

清原

会社の土台作りとして、具体的にはどんなことに着手されていますか。

瀬古

2025年の7月から、人事制度を変えていきます。今までは、何がどうなってこの給与なのか、役職の貢献度はどの程度勘案されているのか、全くわからない状態でした。給与水準は高めなので特に不満は出ていないのですが、自分の評価ポイントを知りたい、という声は若手を中心に上がっています。

また、従来はあまり社員教育に熱心ではありませんでした。体系的な教育を行っておらず、部下に仕事を教えるとか、メンバーの仕事を管理するということが我流になっていました。それでは、どこかで頭打ちになってしまいます。物事の考え方、コミュニケーションの取り方、コンプライアンスといった基本的なことを体系的に学べる仕組みがないと、こういう時はこう動く、という共通認識が育たず、組織が機能しません。何より教育をおろそかにすることで、社員の可能性を奪ってしまうことにもなりかねません。ですので、今年の新人研修は私が担当しました。今後は専任者を選定しようと考えています。

【存在価値のある金型メーカーになる】

清原

事業の現状はいかがでしょう。

瀬古

ダイカストの業界では、「ギガキャスト」という流れが起こっています。従来は細かな部品を一つずつ作り、それらをアセンブルするのが一般的な流れでした。ギガキャストは、複数の部品を大型のダイカストマシンで一体鋳造するのです。その方が、複数の部品を一つずつ作って溶接したりボルトで留めるより、工程もコストも大幅に削減できます。既に中国では、自動車の車体を2~3に分割し、それぞれをダイカストマシンで一体成型しています。

今まで10部品を集めて1つの機構を作っていたのに、それが2~3部品でできるわけですから、部品点数は確実に減るでしょう。その分、金型もいらなくなります。複雑な形状を上手に作れるとか、放熱性がよくて内部に巣(空洞)が発生しにくい、などの高度な技術を持った金型メーカーでないと、生き残りが厳しくなるのは間違いありません。

清原

難しい時代になりそうですが、どんな手を打たれるのですか。

瀬古

今、流動解析ソフトを使って金型の設計を行っています。これを使うと、金型の中で流体がどのように流れるのか、温度はどう変化し、流体がどんな具合に固まっていくのか、パソコン上の3D空間でシミュレーションできます。

今までは実際作り、量産機でテストしてみて良し悪しを判断し、悪い部分を直す、という流れでやっていました。それをソフトによって可視化し、根拠を持って提案できるようにしたいのです。

例えば、熱のコントロールです。流体から金型へ伝わる熱をうまく制御すると、流体の固まる速度や固まり方が変わってきます。その熱のコントロールを金型にやらせるには、どのような設計が必要か、流動解析ソフトを用いて検証を始めています。これができれば、金型の品質を向上させられるだけでなく、より上流工程から入り込んで設計提案を行うことができるようになるでしょう。

清原

流動解析ソフトはかなり手応えがありそうですね。

瀬古

実は、これは私の発案ではなく、社員の声を採用したものです。彼は取引先である大手の自動車部品メーカーとの打ち合わせを通じ、設計に定量的根拠を持たせることの重要性に気づいていました。それができるようになれば、提案の幅が広がると感じていたのだそうです。

その社員が、大手メーカーに出向させてもらえることになり、いろいろ勉強してきてくれたのです。ソフトの解析ノウハウも1から勉強しましたし、鋳造現場に行って、解析結果が現場でどう反映されるのかも見てきました。3ヶ月間あれこれ学んだ後に帰ってきて、ソフトを入れた方がいい、と訴えてきたのです。

そしてソフトを導入。解析精度を高めるため岐阜大学と一緒に共同研究することも決まりました。体制を整えるまで3年かかりましたが、ようやく始めることができます。流動解析チームの中心人物は40代後半の技術者で、そこに30歳前後、25歳前後のメンバーが入り、3人でいろいろと取り組んでもらっています。

【対症療法ではなく、問題の起こらない環境づくりを】

清原

現場の経験も知識もなく社長になられて大変だったと思いますが、得たものも多いのではないですか。

瀬古

経営者になって学んだことは多いですね。就任当初はいろんな問題に直面するたび、もぐらたたきをするように対処していました。でもそれでは根本的な解決につながらず、自分の徒労に終わっていました。個別事案に対し、部下にそういう物言いをしてはいけないとか、そういう接し方は駄目だと言ったところで、個人の価値観を変えるのは簡単ではありません。その場は収まったとしても、別の部署で別の人が問題を発生させ、対症療法的に指導する、では同じことの繰り返しです。そういうことが起こるのは、個人ではなく、土台に原因があるのです。土台を改善しなければ、解決はしません。

現場でのミスも同様です。ミスがあると金型の作り直しになるので、みんな大変な思いをします。だから気をつけましょう、と現場管理者は言うのですが、人間の注意力には限界があります。ミスの起こりやすいやり方、作業フロー、機械の使い方になっていないか。そういった要因をつぶすことで、ミスを起こりにくくする環境づくりが、経営者の役割だと実感しました。その方が結局、経営者も楽なのです。個別対応に右往左往しなくてよくなるのですから。

清原

目標とする経営者はいらっしゃいますか。

瀬古

一番近くで見ているという意味では、やはり会長である父ですね。すごいと思うのは、一切口出ししないことです。本当は私を四六時中叱りたいくらいだろうに、何も言わず任せてくれています。判断も早いし、視野も広くて人への接し方もうまい。今でも毎日現場を歩き、社員の体調はどうとかいったことまで細かく見ています。ドライな人だと思っていたのですが、愛情を持って社員と接していることがわかりました。

その一方、言いづらいことは、自分が嫌われようが構わずスパッと言います。社長とはそういう立場なのだ、という覚悟があるからでしょうね。信念を持ち、軸がはっきりしている点は見習いたいと思います。

清原

中途採用を考えた場合、どんな人材が御社に合っていますか。

瀬古

よく「よそ者が変える」といった言い方をしますが、父もそうでしたし、私自身もよそ者です。父が私を受け入れた理由も、よそ者の私だからこそできることがある、と考えたからでしょう。八州製作にずっといる社員にとっては社内のやり方が「当たり前」になって、何かおかしなことがあっても自分たちでは気づかないかもしれません。そういうところに外の風を入れることは大切です。

中途採用の人には「ここはこうすればいいのに…」と気づいた点があったら、どんどん言ってもらいたいですね。それは、外から来た人にしか持てない視点なので。そのためにも、中途採用は積極的に継続しないといけないな、と思っています。

私は八州製作を、チームワークを大事にしながら、社員個々がやりがいの持てる会社にしていきたいと考え、日々努力しています。ぜひ力を貸してください。

清原

経営者の姿勢や事業の今後など様々な話をお聞きでき、参考になりました。本日はありがとうございました。

 

<プロフィール>

八州製作株式会社

代表取締役 瀬古知里

高校までは岐阜県で過ごし、関西の大学に進学。卒業後、三井住友海上火災保険(株)に入社。岐阜の営業所で事務職として9年勤務する。その後、取引先である販売代理店への出向を経験。出向先では社長を支える立場でM&Aなど様々な業務をサポートする。そうした中で、「言われたことをやるよりも、自分でどうしていくか考える方が面白い。」と感じるようになり、出向の期限終了と共に元の保険会社を退職。2020年4月、父の経営する八州製作(株)に取締役として入社する。3ヶ月後の7月には、父から代表権を受け継ぐ形で代表取締役に就任。技術のことがわからず苦労しながらも、自分ならではの観点で会社の改革、事業推進に務める。2024年に初めてトライアスロンに挑戦。

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