医薬品研究者が三重でつかんだ、“スポーツに本気”のキャリアパス
ドラッグストアで買える身近なかぜ薬や痔疾用薬、滋養強壮剤などを開発・販売し、地域貢献でも高い評価を受ける製薬会社、中外医薬生産。その研究開発部門に所属する原田さんは、華麗な技を繰り出すスポーツ“ダブルダッチ”の選手兼指導者としても活躍中です。大学・大学院で薬学を学び、製薬会社に就職し研究者として5年余りと、順調なキャリアを歩みながら、プライベートのスポーツでも飛躍すべく伊賀に近づこうと転職に臨んだ原田さんが、アーリー・バード・エージェントを味方に希望をかなえた経緯を伺いました。
担当コンサルタント:清原
場所:中外医薬生産株式会社 R&Dセンター

◆ 同じ業界、異なる研究カテゴリー
――転職された理由を教えてください。
原田
3人1組とかそれ以上で縄跳びをしながらアクロバットやダンスをする「ダブルダッチ」というスポーツのインストラクターを、伊賀市で5年くらい前からやってきました。転職前は桑名市に住んでおり、毎週土曜日に高速道路を使って1時間余りかけて伊賀に通い、インストラクターをして帰る生活でした。ダブルダッチに対してコミットメントを上げて本腰を入れたいと思ったのがきっかけです。
――転職のきっかけがスポーツというのは興味深いですね。キャリア面での理由もありましたか?
原田
今までの研究と近くて、でも違うことをしたい思いはありました。前職の医療用医薬品の研究では、自分の携わった薬が10年や15年後にやっと世の中に出るものでしたが、もうちょっと社会の役に立つまでのスパンが短いといいなという気持ちもありました。
――今のお仕事の内容について詳しく教えてください。
原田
今の仕事は、主にOTC医薬品の製剤化に関する研究をしています。医薬品として承認を得るためには、設定した処方や製造方法の妥当性を示す必要があります。商品には、例えば錠剤とか軟膏剤とかいろんな剤形があり、それぞれに対して根拠データを集め、最適な処方や製造方法を設計する仕事をしています。
――薬を開発する研究にはいろいろなカテゴリーがあるのですね。
原田
そうですね。前職では認可前の新規有効成分について安全性を担保するための研究をやっていましたが、製剤化の研究はその次の段階で、有効成分の安定化を考えながら目的とする剤形に造り上げるための研究となります。問題があった場合には原因を調べて解決策を見出し、試作や試験を繰り返して商品化を実現していく仕事です。商品開発は自社商品だけでなく、他社から開発受託することもあります。
――現在は製剤研究のご担当で、前職は同じ製薬会社でも別の研究だったと。
原田
前は化学合成などによって得られた新規有効成分に対して、未知のリスクや副作用の生体メカニズムを調べるものでした。今やっている製剤化検討というのは、有効性や安全性が既知の有効成分を取り扱って、薬の処方や製造方法を検討するものになります。
――医療用医薬品からOTC医薬品への変化に加えて、研究内容のシフトもあったということですか。
原田
医療用医薬品は、病院で使われたり、病院からの処方箋がないと取り扱えない薬です。OTCはオーバー・ザ・カウンターの略で、処方箋なしで購入できるという意味です。現職ではOTC医薬品などの製造販売が軸なので、自分の関わった商品にドラッグストアで出会えます。取り扱う商品が身近になった分、その商品が多くの人の手に取られる責任を強く自覚できるようになりました。
――同じ業界・職種の転職でも、ギャップがあったわけですね。苦労もあるのでは?
原田
専門性が異なるので最初は自信がなかったのですが、データを集めて論理的に考えることや国のガイドラインなどの情報の探り方などは共通ですから、前職での基礎を活かせています。ただ、こちらは関わる範囲が広くて一つ一つのへ解像度を高めないといけません。例えば、製造に関わる機械の仕組みとか。
――機械のことまでですか。
原田
前の職場では生物系が専門分野で、使用する機械についてはあまり詳しくありませんでした。研究所全体でも機械に詳しい人が少なかったため、機械に詳しい外部メーカーのプロが研究所に常駐していて、困ったらその人を呼んで相談していました。でも今は製剤を専門とする上では、基本的に製造に関わる機械に精通する必要があるし、何かあっても自分たちで解決しないといけない。工程ごとの製造条件や使用する機械の仕組みなど、それら全体を理解しなきゃいけない。先輩に聞いたりして、いろいろと勉強する必要があります。

◆ コンサルタントが心強い味方に
――転職のきっかけになったダブルダッチについて伺います。5年ほど前から伊賀を拠点に活動されていたということでしたよね。
原田
前職は研究所が三重県内で、住んでいたのは桑名市でした。平日は職場に通って、毎週土曜日は高速道路を使って1時間余りかけて伊賀のスタジオに通い、インストラクターをしていました。指導するのは子どもたちですが、保護者さんたちとも触れ合って地域の良さも感じるようになっていました。
――インストラクターだけでなく選手としても活躍されているそうですね。
原田
はい。日本代表を目指しています。
――すごい目標ですね! そこまで打ち込んでいる中で、転職活動はどう進められたのですか?
原田
大手の求人プラットフォームも使ってみたのですが、専門性が高い仕事だったせいか、県外の製薬会社を薦められることが多かったです。でも、伊賀に近づくのが大きな目的だったので……もっと地域にフォーカスしてくれればと思いました。初めての転職で流れが分からない中、転職支援会社に登録したり、周りの人の話を聞いて情報収集もしていた中で、ここにいるコンサルタントの清原さんとつながりました。
――その辺りの経緯は、清原さんにもお聞きしたいです。
清原
そうでしたね。原田さんと直接、お話をした中で、プライベートも仕事も充実させたい思いや、転居をしてでも実現したいことがあることに、すごく共感しました。三重県全体で医薬系の会社は多くない中で、伊賀であれば弊社と以前からつながりを持たせていただいている中外医薬生産さんがすぐに思い浮かびました。原田さんのお人柄やこれまでに入社された方のお話を総合して、ここしかないと確信しました。
原田
同じ業界ですし、現職の会社のことは清原さんから聞く以前から知ってはいました。でも実際に求人に応募をするとなると一か八かだったので、一人味方がいてくれるのはかなり安心感が違いましたね。
――ダブルダッチの活動については、会社にどう伝えたのですか?
原田
仕事が終わってから練習やインストラクターをすることは前提だったので、面接で説明し、理解してもらうことができました。

◆ ダブルダッチは仕事にも活きている
――転職されてまだ1年も経ちませんが、職場にはなじめましたか?
原田
研究職としてある程度の業務経験があっての転職だったので、職場では中堅ポジションになった形です。データの取り方や研究の基礎を若手に教えて、上司には業務の大枠や専門的な話を聞いたりします。コミュニケーションを取るのは得意な方なので、上司にいろんな話を聞きつつ、若手に分かりやすい形で落とし込んだりとか、潤滑剤みたいな役割ができているかなと思います。
――順応が早いですね。
原田
雑談も大事にしていて、若手の子には週末は何をしてたとか、上司にはお子さんのこととか、そういう他愛ない話をよくするんです。「まだ入って数カ月とは思えない」と言われましたね。
――そこはもしかして、ダブルタッチのインストラクターをされてきた経験が活きている?
原田
そうですね。指導は幼児から高校生までが対象ですが、生徒の保護者の方たちとしゃべることも大事にしています。ダブルダッチは2人が2本のロープを回した中で、また別の1人以上が跳ぶので、仲間との信頼関係が大事です。けっこう繊細なスポーツでもあるので、コミュニケーションが絶対に必要になってくるんです。だから、子どもたちへの普段の指導は、人間的な成長を軸に考えています。保護者さんには「こういう良いところがありましたよ」「こういうところはもっと伸ばしたらいいと思います」などと報告して、日頃から信頼関係を築いています。
――なるほど。すでに“中堅ポジション”をやってきたわけですね。
そうなりますね。ダブルダッチが仕事にちゃんと活かせていることは、特に言っておきたいです(笑)。
――生活面での変化はありましたか?
原田
引っ越して、休日は自宅から高速道路を使わずに来られるようになったのが大きいです。平日も、終業後に10分で子どもたちに会えるようになりました。「今日、ちょっと練習しない?」と教えに行くことができます。仕事では時間の効率化への意識が上がりましたね。プレイヤーとして自分のトレーニングもしたいので。前職のときはけっこう残業をしていたんですが、今は基本的に定時を守るようにしています。そこは職場の協力のおかげですが。
――応援されているんですね。
原田
はい。ダブルダッチはまだまだマイナーなスポーツなので、大会の運営も自分たちですることがあります。会社は、イベントごとのスポンサーにつくなどサポートしてくれています。あと、ちょうど今、私が取材を受けて出演したテレビ番組の映像を休憩室で繰り返し流してくれています。自分が映ると恥ずかしくて、休憩室に行きづらいんですけどね(笑)。

◆ 三重の人は“あと一歩”を踏み出せる
――ご出身は山口県とのことですが、三重県にIターンされていかがですか?
原田
先日、家族が遊びに来ました。観光地がかなり多くて、いろいろな所に連れていけて便利だと思いますね。名古屋や関西にもすぐ行けますし。
――車があるかどうかは、かなり違うんじゃないですか?
原田
そうですね。名阪国道もあって車では便利ですが、伊賀からは出張のときに公共交通機関が不便に感じます。バスもあるみたいなんですが。
――伊賀の方は、列車の本数が少ないですよね……。では、三重県民の人柄についてはどんな印象ですか?
原田
田舎コンプレックスが少ない感じがします。「閉じこもらずにすぐ足を運ぼう」っていう“フッ軽”な人が比較的多い。1-2時間くらい移動すれば京都や大阪にも行けるし、三重県自体が大きくて伊勢もこちらからは遠かったりするけど、ちょっと頑張って家を出れば、充実度が高い。その「ちょっと頑張ろう」ができる人が多いイメージです。行動力がある。だから、自分が何かチャレンジしたいことがあったときに、背中を押してくれる人が多いのかもしれません。
――そう感じるのはなぜですか?
原田
インストラクターをしている方は、「保護者さんたちのバックアップが手厚いな」と思っているんじゃないでしょうか。ダブルダッチの大会は名古屋とか大阪とか県外で行われることが多いので、送迎する保護者さんに「ちょっと頑張ってもらわないと……」と言うと、「行きましょう!」と返ってくる。いい意味でけっこう、泥臭いイメージがあるんですよ。“あと一歩”を踏み出せる。
――三重県民にとって自信になる言葉ですね。最後に、今、転職を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
原田
仕事は1日の少なくとも3分の1で、残業とかを考えたらもっと使うもので、人生の幸福度を左右します。だから、改めて自分の軸は何か、自分の得意や実現したいことは何かを本当に考えてほしいです。報酬や条件については、無茶な要求はいけませんが、納得のいくまで交渉をしてもいいんじゃないでしょうか。
――その面でも、コンサルタントは心強い味方。
原田
はい。収入面や管理職へといった直接的なキャリアアップを狙う以外にも、選択肢自体を広げてもらうことで、自分の輝ける場所を見つけたり、好きなことをしながらお金を稼ぐ道だって見つけられると思います。コンサルタントや周囲の力も借りて、仕事を人生の一部として、最適な職場を選んでほしいです。
――原田さんだからこその、説得力のある言葉ですね。本日はありがとうございました。